私の専門は人の精神の健康にかかわる看護ですが、この領域で見逃せないことは、わが国の精神科病院に入院している人が約28万人いて、平均在院日数は267.7日(厚生労働省, 2017)であるという事実です。この数字はOECD諸国で最も多く、OECD平均は10万人当たり68床のところ日本は269床です。入院治療が終わっても退院できない患者は社会的入院と言われますが、この社会的入院を容認している、わが国の精神科医療を改善しなければなりません。
そういうわけで、私は「長期入院精神障害者の地域移行」で求められる看護実践を研究してきました。わかったことは、患者を一人の人として尊重することに尽きます。具体的事例では、看護師が患者との関係性を問い直し、その世界観を知ろうとしたことを端緒とし、患者の行為を尊重して周り(病棟ルールや患者にかかわるスタッフの対応等)を変えることでした。
私は、患者を一人の人として尊重するという、当たり前すぎて説明できないことについてフランスのラ・ボルド病院で実践されている「制度精神療法」(Oury, 2001/2006)の視座を用いています。この療法は、ジャック・ラカンの精神分析を利用しながら主体を守る実践であり、制度が個人を疎外しないための具体的な教授法の訓練です。実践例は次のようなことです。「他人を尊重しながらその場にいるということ」「他人の世話をするという機能を、いかにして複数で分かちもつか、その状態をいかに管理するかを話し合うこと」「歩き回ることの自由の保証」などです。当たり前のことができないのは、戦争をしないで平和に暮らすことができないのと同じかもしれません。
第10回アルコール問題を考える会
村上 満子(人間健康学部 看護学科 上級准教授) 【人物紹介】 |