私は、今年度から成人看護領域の教員として着任しました。それまでは県内の急性期病院で、がん患者について緩和ケアを専門的に実践するがん看護専門看護師をして業務してきました。様々な問題を抱えるがんの患者と接していく中で、やはり痛みなどの身体的な苦痛を最優先に対応すべきだと常日頃から実感しています。その中で、いつしかある疑問が生じました。医療の進歩で多くの鎮痛薬や治療法が開発されているが、なぜ、痛みで苦しむがん患者は常にいるのであろうかと。
緩和ケアの先駆者であったイギリスの医師シシリー・ソンダースは、当時控えられていたモルヒネを鎮痛薬として適切に使用できる方法を確立したこと、1967年に世界初のホスピス病棟を開設するなどの功績があります。その逸話として、ホスピス病棟を視察にきた若い医師団は病棟内を一通り案内してもらった後に「では、ホスピス病棟を案内してもらえますか。」と言った話があります。そこに入院している終末期のがん患者たち(予後は2週間ほど)が、痛みに苦しむことなく読書したり、お茶を飲んだりと穏やかに過ごしていたため、その患者たちが終末期の患者とは思わなかったのです。
さて、それから半世紀が経っていますが、今入院している終末期の患者は穏やかに過ごせているのでしょうか?痛みを増強させる感情面に対するアプローチは同じくらい進歩しているのでしょうか?我々、看護師は医療の進歩に伴い、薬剤などに頼るのだけではなく、苦悩する人との基本的な関わり方について常に内省と発展を続ける必要があると思います。臨床現場からは離れましたが、常に一医療者としての意識をもち、様々な苦痛と苦悩を抱える人達へのアプローチを科学的に研究していきたいと思います。
吉澤 龍太(人間健康学部 看護学科 助教) 【専門分野】
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