聖地とツーリズムの関係とは!?
日本には聖地と呼ばれる場所が数多くあります。たとえば、三輪山(奈良県)や高野山(和歌山県)、沖縄では斎場御嶽やグスクを挙げることができるでしょうか。これらの聖地へ訪れると、独特の雰囲気をもっており、聖地は古(いにしえ)から不変的に存在しているとイメージする方も多いかもしれません。こうした聖地の場所性から、これまで観光客の来訪や観光地化といった「ツーリズムの進展」は聖地を脅かすものとして批判的に捉えられてきました。しかし、ツーリズムは聖地を俗化させるだけの存在なのでしょうか。ツーリズムと結びついて聖地が発展するといったことはないのでしょうか。
私は以上の問題関心から、比叡山(滋賀県)を対象に聖地とツーリズムの関係について研究してきました。比叡山は最澄が天台宗を開宗して以来、多くの祖師高僧を輩した「日本仏教の母山」として知られています。そのため、古くから学問・修行の山としての性格が強く、参拝者への関心は高くはありませんでした。しかし、大正末以降に山上へのケーブルカーが開業し、さらに戦後になるとドライブウェイが建設されたことで、多くの観光客が訪れる山となりました。こうした一連の変化に対し、比叡山側(延暦寺)は増加する観光客を対象とした施設整備や教化活動を積極的に進めました。つまり、比叡山はツーリズムを批判し排除するのではなく、自ら取り込み、活用することで聖地を発展させていきました。
以上の比叡山とツーリズムのダイナミズムは、従来の聖地観に再考を促すとともに、ツーリズムの役割やその意義についても新たな論点を提供するものと考えられます。今後は沖縄を舞台に、聖地とツーリズムの関係をさらに追究していきたいと考えています。
うだ たくや
卯田卓矢 国際学群観光産業教育研究学系 准教授
滋賀県草津市出身
実家からは琵琶湖を挟んで対岸に比叡山が見えます。「戦後の比叡山は変わった」という父の何気ない一言が今の研究を行うきっかけになりました。趣味はドライブ、サッカー観戦(テレビで)、音楽鑑賞。観光地理学、文化地理学専攻。 |