政策科学の視点から観光を考える
大谷 健太郎(国際学群 観光産業教育研究学系 上級准教授)
私の研究分野は、観光研究と政策科学であり、主な研究フィールドは沖縄です。観光事業論や観光政策論を中心として、観光者来訪と同時に地域に暮らす人々の存在を念頭に置いた政策評価について研究しています。
昨今、逼迫する財政や人口減少、大都市への人口集中などを背景に「地方創生」が叫ばれています。これは、地方で定住人口のみならず交流人口を増やすこと、すなわち観光振興に関する戦略の重要性も意味します。
さて、観光は地域住民の生活を改善または向上させているのでしょうか。もちろん、雇用や所得を生み出し、地域の税収増加に寄与していることは間違いありません。しかし、本当に地域が必要とし、地域住民が望む「地域の姿」となっているのでしょうか。よくある話ですが、「大型の商業施設を郊外に誘致して便利になった。一方で中心市街地が衰退した」、これは当り前のことです。観光の視点からみると、地域や中心市街地の魅力を高め、大型施設や資源などに誘引された観光客を誘導する仕組みづくりが重要になります。こういった考え方は一般的に観光振興などという言葉で表されますが、この観光振興の戦略の体系を観光政策としてみましょう。そうすると、必然と観光と地域、政策の関係が読み取れると思います。
社会を変容させる観光を望ましい方向に導くためには、政策に公共哲学や理念といった価値基準が必要です。観光振興および観光まちづくりでは、こういった「哲学」を再考することが必要なのではないでしょうか。ここでいう「哲学」は実践的な公共政策規範であり、価値基準に基づいた政策目標、すなわち地域のめざすべき将来像のことになります。
以上のような公共哲学を考え、住民意向や満足度、社会的経済効果などを政策科学および経済学の分析手法を用いて研究しています。観光に対する住民意向調査を学生とともに実施し、「地域における望ましい観光のあり方」を学生と地域とともに考えていきたいと思います。
2015年4月
大谷 健太郎(国際学群 観光産業教育研究学系 上級准教授) 1978年生まれ。東京都出身で名桜大学国際学部三期生。大学で観光振興、修士で社会資本整備評価、博士で政策評価基準を学ぶ。博士(政策科学)。旅行、鉄道、駅やSAPA等の「侘しさ」好き、横浜ファン一筋27年、料理、映画・音楽鑑賞という趣味は、どれも中途半端。様々なシガラミを通して物事の本質を考えるのが最近の楽しみである。 |