「小説」を「研究」するということ
小嶋洋輔(国際学群 国際文化教育委研究学系 上級准教授)
私の研究は日本近現代文学研究です。いわゆる「小説」を「研究」しています。小説を様々な情報の集合体と考えて、その情報を解きほぐすことで時代や思想の流れを発見するのが日本近代文学研究の目的です。
具体例をあげてみます。私の主たる研究対象のひとつに、遠藤周作という作家の『沈黙』という作品があります。この作品は江戸時代初期の日本が舞台で、ポルトガルからキリスト教を伝道しようとやってきた司祭ロドリゴが主人公です。彼は弾圧を受け、日本という異文化に打ちのめされ、自分の信じてきたキリスト教に疑いを感じていきます。今、主人公ロドリゴについて紹介しましたが、このように小説とは、その登場人物を実在する人間と同様、生きた人間として、紹介することができます。また知人のようにその主人公の悩みを読者は追体験することができるのです。ロドリゴに寄り添い、彼が小説の最後で辿り着いた思想をどう解釈するかが、まず小説を研究するということになります。
そして、舞台である400年前の情報と同時に作品が発表された1960年代の情報が、この『沈黙』には流れ込んでいます。また、この小説は遠藤周作という人間が書いたものです。大正時代に生まれ、戦争を経験し、結核という病で死を間近に体験した、その遠藤という作家の人生も情報として流れ込んでいるのです。もっといえば、遠藤が小説を書いた時代の小説というジャンルの置かれた位置(これは今と同じではありません)、またこの小説はどのように発表されたか(メディアの問題です)、それもまた小説に流れ込む情報のひとつです。
こうした情報をどう解きほぐすか、これが日本近代文学研究の面白いところです。1篇の小説から、無限に問いが生れてくる、それがこの研究の面白いところです。
2015年1月
2011年没後15年に合せて開催された 長崎市遠藤周作文学館からの眺望。
神奈川近代文学館の遠藤周作展 『沈黙』の舞台です
小嶋洋輔 (国際学群 国際文化教育委研究学系 上級准教授) 1976年生。千葉県生まれ宮城県育ち。趣味を仕事にしてしまったせいで、現在無趣味。ただ、毎朝の通勤中(かなりの長距離ドライブ)に聞く落語が癒やしになっている。そしてあのとき、バンドとか文芸部ではなく、落研に入っていれば別の人生だったのでは、と夢想している。それがなぜだか楽しい今日この頃なのである。 |