普遍的な価値に捧げる、「ワイルドな」研究
田代 豊(国際学群 観光産業教育研究学系 教授)
環境に関する研究が、私の専門分野です。観光対象となるサイトの環境の状態や汚染の状況・原因、自然景観の数値化評価などを研究していますが、その中でも、農薬やPCB、環境ホルモンというような、微量で人間や生物に影響を与える環境中の物質に関する研究に、多くの労力をかけています。
こうした研究は、海に潜ったり岩山によじ登ったりして手に入れたサンプルの中に、有るのか無いのかさえも分からない探し物をするようなものです。現在、学内の実験室で最低限の分析装置類を稼働させ、一般の分析機関と同程度の、ナノグラム(10億分の1グラム)レベルの物質を分析することができる状態になっています。
私がこんな面倒な分野の研究をやるようになったのは、他にやる人がいないからです。行政や民間企業で環境分析業務に就いている人は何人もいますが、自らの問題意識に基づいて研究をやっている人は、南西諸島にはほとんどいません。例えば、畑から流出する農薬によって南西諸島のサンゴ礁がどの程度汚染されているか、あるいは米軍が投棄したPCBに汚染されているか、このような問いに対する答えは誰も持っていないわけです。
では、何を問題と考えるのか、自然と人との関係はどうあるべきなのか。私がこうしたことにヒントをいただいてきた方々というのは、たとえば自然の摂理に沿って作物を育てる農家であったり、場所固有の価値を見出す美術家であったり、自然の中の物質の流れを読み解こうとする化学者であったり、自他の自由を最重視する旅人であったりしました。こうした、何か普遍的な価値を追っている人達とともに、科学によって真実を解明し社会に役立つことができれば、と日頃思って研究しています。
サンゴへの有害物質蓄積の測定装置設置
2013年1月
田代 豊(たしろゆたか) 油絵が趣味の建築家を父に持ち、高校時代にバンドと有機化学実験と「倫理・社会」にはまる。大学時代には、沖縄の海でキャンプをしながら素潜りを始め、卒業後巨大企業に就職するが、最前線で激働して世の中の仕組みに気が付いてしまい(?)、転職。その後、色々あってから、現職。「完全無欠のサンゴ礁の海」を探し歩く夢を時々見る。 |