嘉納英明教授・鈴木智香子さん(卒業生)の「82さいの中学生 はっちゃん」が沖縄タイムス出版文化賞を受賞
本学の嘉納英明教授(文)、卒業生の鈴木智香子さん(絵)による絵本「82さいの中学生はっちゃん」(平成30年5月、沖縄時事出版)が、「第39回沖縄タイムス出版文化賞(児童部門賞)」に選ばれました。
同作品は、嘉納教授の実母である初子さん(はっちゃん)の沖縄戦の体験が描かれています。沖縄戦の混乱期を生き抜き、子育てを終え、82歳にして学校に通うはっちゃんの生き生きとした姿がやわらかいタッチで明るく表現されました。初子さんの通った学校は、沖縄県の「戦中戦後の混乱期における義務教育未修了者支援事業」の委託を受けた沖縄市内の学習塾。初子さんは平成25年1月から平成27年3月まで学び、義務教育課程を修了したと認められ、沖縄市立美里中学校校長から卒業証書が授与されました。美里中学校は、嘉納教授の母校でもあります。
平成31年2月6日(水)、那覇市内のホテルで表彰式と祝賀会が行われました。嘉納教授と鈴木さんは、「エントリーもしていない作品でしたが、受賞には本当に驚きました」と語っていました。会場には、はっちゃんとご家族、ご友人が集い、受賞の喜びを分かち合っていました。
この絵本に込められた思い、そして、はっちゃんからのメッセージを紹介します。
賞状を手に。受賞者記念撮影にて。後列右は沖縄時事出版の名幸諄子社長
主人公のはっちゃん(初子さん)を囲んで
受賞を喜ぶ嘉納教授のご家族。祝賀会にて
山里勝己学長(右端)も祝福。学長は新沖縄文学賞選考委員として祝賀会であいさつした
沖縄タイムス出版文化賞:県内出版文化の向上と出版活動の振興を図るため、沖縄に関わる一般刊行物の中から優れた図書を選び、著作および発行所を表彰する事業(沖縄タイムス社)。
嘉納教授
母は、私が幼少の頃から沖縄戦の話をよくしてくれました。その体験を記録して家族内で共有しようと思ったのが母の85歳のお祝いの頃で、この絵本出版のきっかけとなりました。私たちは、沖縄戦については体験者から聞いた世代です。次の世代にどのように伝えていくかと考えた末、小学生でも読めるように「絵本」というかたちにたどり着きました。また、戦争を生き抜いた、ウチナーンチュの生きざまを描きたいと思っていました。
戦中、戦後の混乱期で、特に、昭和7年~16年生で義務教育を十分受けることができなかった人は、約1,600人います(沖縄県の調査)。県教育庁は、このような方々を対象に学習の機会を提供する支援事業に取り組みました。沖縄市内では、県からの委託事業を受けて、母はそこに通いました。母を含めて5人の方に聞き取り調査を行った結果、その方々は、字や文章が書けないことなどで、引っ込み思案の傾向にあることがわかりました。しかし学校に通い始めたじいちゃん、ばあちゃんは、笑顔に満ち溢れ、学ぶことを本当に楽しみ、自信もついてきました。教育を受けられるということ、人が人として成長していくことがどれだけ大切で幸せなことか、この絵本を読んで、気づくきっかけになってくれればうれしく思います。
沖縄戦後の問題はこれだけに限りませんので、戦後の教育史を専門とする研究者として、これからもいろいろな視点から取り組んでいきたいと考えています。
鈴木さん(2018年3月、国際学群国際文化専攻卒業。秋田県出身)
私は在学時、芸術を専門とするシャイヤステ先生のもとで芸術作品の制作活動をしていました。嘉納ゼミの友人を通して嘉納先生から絵本の挿絵のお話を頂きました。沖縄戦の体験を聞いたことがなかったので、不安に思いながらも初子さんの体験を含め、様々な記録や当時の写真などを見て理解することから始めました。
はっちゃんは、辛く悲しい中でも、戦渦を懸命に生きました。父親が戦死し、母親と幼い妹弟のために働きにでました。そして、自身も結婚し、子どもを育てました。ようやく自分の時間が持てたとき、学びたいという意欲がよみがえった。82歳で学校に入ることができ、自分の夢、志を遂げられたのでした。そういう初子さんを通して私は、学ぶこと、学べる場所があるということの素晴らしさを感じました。絵を描く過程では、沖縄戦を伝えること、学ぶということ、二つのテーマもって取り組みました。戦時下の表現でも、子どもたちに受け入れられるようにかわいらしく描くことを心がけ、戦前、戦中、戦後、各シーンの色づかいを工夫しました。こうして完成した絵本が、沖縄タイムス社の出版文化賞を頂きました。本当に感激しています。
名桜大学でのいろんな方との出会い、いろいろな専門に触れ学んだことは今、社会に出て確実に活きています。これからも絵を描き続け、自己実現を目指して頑張ります。
はっちゃん(初子さん)
受賞できたのはご協力頂きました皆さまのお陰です。感謝しています。戦争体験者がどんどん亡くなっていく中、こうして受賞できて喜んでいます。私は、戦争で父を亡くし、6人きょうだいの長女なので、母を助けて、小さい妹、弟たちを育てるため、次女とともに学校に行かずに働きました。結婚して子どもたちが生まれてからも、生活のために洋裁、清掃など、どんな仕事でもしました。子どもたちみんな一人前になって仕事にも就いて安心しています。7人の孫も学校に行って頑張っています。今の時代は、何でもあるし、自分のしたいようにもできるから平和な世の中。私は、正月、家族みんなに囲まれて、家族写真を撮って、今、とても幸せですよ。