大学院国際文化研究科国際地域文化専攻(博士後期課程)キックオフシンポジウムを開催
平成30年9月9日(日)、本学学生会館SAKURAUM 3階大講義室にて、本学大学院国際文化研究科国際地域文化専攻(博士後期課程)キックオフシンポジウム「環太平洋という視点に立って沖縄(琉球)・アジア、(ハワイを含む)南北アメリカの地域文化研究を深化する~名桜大学大学院博士後期課程の特色と役割」が開催されました。
本学は、平成30年3月、文部科学省に当博士後期課程の設置認可申請を行い、同年8月31日付で認可されました。このシンポジウムは、当博士後期課程の設置認可及び平成31年4月開設を周知することを目的として、また、学生募集活動のキックオフイベントとして開催されました。会場には、本学修士課程修了生や教職員、入学希望者、研究者など、学内外から40余人が集いました。
第一部の設置構想紹介では、山里勝己学長から、本学の環太平洋地域における大学間交流や共同研究の実績の紹介、これからの地域文化研究のあり方をはじめ、当博士後期課程の設置の趣旨や必要性、経緯について説明がありました。山里学長は、「環太平洋という視点に特化し、これまで蓄積された沖縄(琉球)・アジア、(ハワイを含む)南北アメリカ研究を継承・深化するために高度の普遍的な研究を行う必要がある」「研究分野間の学際的な連携を図ることを重視し教育課程を編成した」と教育研究の特色等について強調し、「沖縄・日本における『琉球・沖縄研究』の拠点を目指す」と宣言しました。
第二部では、当博士後期課程で研究指導を担当する5人の教員が、自らの専門分野、研究業績を紹介しました。また山里学長から、6人の講義担当教員が紹介されました。続いて第三部のパネルディスカッションでは、演習担当指導教員が当博士後期課程での新しい教育研究の展望について発表し、フロアを交えて議論を深めました。
琉球・沖縄文学に関する研究指導を行う波照間永吉教授は、「琉球文学研究は、ユネスコで『絶滅の危機に瀕した言語』とされる琉球語の問題と表裏を成しており、本専攻での研究は琉球語の復興にもつながる。沖縄を研究するということは、そのフィールドに日本・中国・韓国・東南アジアが入るのは必然であり国際的研究である」と沖縄研究の重要性を説きました。また、「自身の研究として、琉球文学研究の深化と研究環境の整備をめざし、『琉球文学大系』のようなテキストの集成を早急に手がけなければならない大きな課題である。その礎石となるテキストを作りたい。名桜大学がその国際的研究拠点となることを思い描いている」とビジョンを示しました。
南島地域の民俗文化について研究指導する山里純一教授は、「古代史を研究している中で、魔除けやまじないなどに見られる歴史民俗学的研究を行い、沖縄の精神文化を探求してきた。南島地域には、固有の民俗文化の他に、中国の民間信仰も伝播し沖縄各地にその痕跡を残しているなど、日本や中国、韓国など東アジア地域の文化とも深くかかわっている。比較民俗的な視点を取り入れながら研究を深化させ、民俗文化研究の拠点形成に向けて取り組みたい」と述べました。
中国・琉球関係史に関する研究指導を行う赤嶺守教授は、台湾での研究活動のためビデオによる発言となりました。最初に現在研究を進めている琉球王府の『歴代宝案』という外交文書の編纂について紹介。次にその取組みを通して、外からみた沖縄研究及び「沖縄学」と総称される学問領域について、「今後の『沖縄学』においては、他領域と融合する、より多角的な視点に立脚した学際的な研究が求められている。例えば文学研究と歴史研究のタイアップ、海外の研究者・機関とのタイアップなど、より広がりのある国際的、学際的研究を名桜大学で実現していきたい」と現状と課題を力説しました。
アメリカ環境文学に関する研究指導を行う山里勝己教授は、「自然」から「環境」が強調されるようになった背景など、アメリカ文学の変遷・変容や新しい学問の進展について概説しました。また、「この博士課程では、特に太平洋の東と西、あるいはアジアも含めて、いろいろな分野からの視点で研究することによって新しい学問が創造、深化できると期待している。これからは、二つの学問間の『インターディシプリナリー』ではなく、もっと枠を超えた『トランスディシプリナリー』としての学問を体系的に構築し、この博士課程を発展させていきたい。また、『人間と場所』という私の研究テーマについても沖縄島北部を拠点としてトランスディシプリナリーのアプローチで展開していきたい」と展望しました。
中南米地域文化に関する研究指導を行う住江淳司教授は、移民社会に焦点を絞った「沖縄から/への人の移動」の研究や、19世紀末にブラジル北東部バイーア州カヌードスで生じた内乱「カヌードスの乱」に関する研究について言及しました。本博士後期課程における展望については、「これまでの学部学生中心の国際交流について、博士後期課程の設置を機に、国際水準の理論的・実証的研究を行い、有効な解決策を提案し、かつ実施し得る人材の育成を目指し、本博士課程の持つ研究シーズを説明するため、中南米5か国の学術交流協定大学、沖縄県人会と連携・協力し、博士課程担当教員による研究キャラバンを実施してはどうか。また、南北アメリカ、沖縄(琉球)・アジアの研究の融合を図ることで、『沖縄の文化』について学識を深化させたい南米の学生たちを本博士課程に引き寄せる可能性を見出したい」と提言しました。
最後にフロアとのディスカッションが展開されました。フロアからは、「夢が広がる構想であり、日本中、世界中の学生がこの博士課程で学びたいとやってくるはずだ」、「将来、名桜大学に"沖縄研究センター"のような機関を設立してほしい」、「博士後期課程の大学院生がリサーチャーアシスタントやティーチングアシスタントを担い、学部学生に対する学習支援を構築すると、将来に向けた学問の進み方を先輩に学ぶことができる」など、多くの期待の声が寄せられました。
また、「"琉球(学)""沖縄(学)"という言葉にこだわらず、"琉球・沖縄学"としてはどうか」、「先生方の研究を地域のみなさんが理解できる言葉(日本語)で発表して、さらに世界に広げてほしい」という要望も聞かれました。
瀬名波榮喜本学名誉学長からは、「名桜大学の開学からの特色の一つは、地理的・歴史的にも深い関係がある東南アジア、それから移民ネットワークを活用した中南米、それらの地域をフィールドとした教育研究でありました。それらをひっくるめてパンパシフィックとなるのですが、その一直線上に博士課程ができたことを何よりもうれしく思います。心からお祝い申し上げます」と祝辞が贈られました。また、波照間先生の言及した「琉球文学全体のテキストの集成」という大きな課題に対し、「テキストを作る際、いくつもある異なるテキストをどのような基準でまとめるのかというのが最大の課題となるだろう」とご自身のシェイクスピア研究の事例を紹介しながら激励の言葉がありました。「先生方のお話を聞くと私も入学させてくれないかなと希望します」との言葉は会場から感嘆の声を誘いました。
パネルディスカッションは、本学修士課程修了生の比嘉アンドレスさんの「沖縄にとって『そのとき歴史が動いた』瞬間はまさに今名桜大学に博士課程ができることだと思います。私の先祖の土地、やんばるにこのようなすばらしいことができたということ、さらに世界にアピールできることをとてもうれしく思います。2022年には沖縄の日本復帰50周年を迎えますが、それに向けても研究が益々発展していくことを期待しています」というメッセージで締めくくられました。
シンポジウムは、名桜大学の歴史に「大学院国際文化研究科国際地域文化専攻(博士後期課程)」が刻まれることの喜びをフロアのみなさまと分かち合い、壮大な夢を語り合う機会となりました。
博士後期課程キックオフシンポジウム会場の様子 | アメリカ環境文学研究分野について紹介する山里学長 | 南島地域民俗文化研究分野について紹介する山里純一教授 |
琉球・沖縄文学研究分野について紹介する波照間教授 | 中南米地域文化研究分野について紹介する住江教授 | パネルディスカッションのコーディネーターを務めた山里学長 |
フロアからの質問に対して丁寧に説明を行う波照間教授 | 研究分野における現状と展望を語る山里純一教授 | 中南米5カ国の協定大学との学術交流促進を提言した住江教授 |
パネリスト一同 | 司会進行を務めた高嶺司教授 | 激励の言葉を贈る瀬名波榮喜名誉学長 |
期待の声を寄せた本学修士課程修了生の比嘉さん |