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【スポ健 COLUMN】第10号『ファンの在り方(2)』

掲載日:2018年5月10日スポ健コラム

 本号では前号に引き続き、ファンの在り方について述べていきます。特に、ブーイングに焦点を当てたいと思います。ブーイングとは周知のように、観客や聴衆が不満や不服の意を表すことです。この点は、野次と同様の性質を持っていると言えます。しかしながら、ブーイングは野次と比較すると、否定的な感情を抱かれない傾向にあります。国会議員に代表されるように、野次に対してマスコミは厳しい批判を展開しますが、ブーイングに対しては批判が緩やかになるどころか、批判の対象とさえなりえないケースも存在します。特に、スポーツにおけるブーイングに対しては非常に寛容です。先日行われた、メジャーリーグのマリナーズ対エンゼルス戦において、大谷翔平選手がブーイングを浴びました。ブーイングを受けた中、大谷選手が2安打を記録したことは報道されましたが、ブーイングに対して厳しい批判を展開した報道は、管見の限り見当たりませんでした。

 ブーイングは野次のように具体的な内容を伴いませんが、プレイヤーに対して、結果的に攻撃を加える行為です。興行として、悪役を意図的に演じることによってブーイングを求めるプレイヤーも存在しますが、多くのケースにおいてブーイングはプレイヤーに精神的な負担を与え、より激しさを増すものであれば、言葉の暴力とも言えるでしょう。

 スポーツ基本法では、スポーツは他者を尊重し、協同する精神、公正さと規律を尊ぶ態度を培うと謳われています。また、スポーツは人と人との交流を促進し、地域の一体感や活力を醸成するものであり、人間関係の希薄化の問題を抱える地域社会の再生に寄与するとも述べられています。

 プレイヤーの意図的なルール違反や無気力なプレイに対するファンによるブーイングのケースでさえも、他者を尊重し、協同する精神の現れた行為とは言えないでしょう。ファンの期待とは異なった試合展開に対する、苛立ちの現れと言えるでしょう。ただ、捉えようによっては、ファンが一体となって対戦チームやプレイヤーにブーイングを浴びせる行為は、同じチームやプレイヤーを応援する人と人との交流を促進し、地域の一体感や活力を醸成する可能性があります。その意味において、ファンが一体となったブーイングは、人間関係の希薄化等の問題を抱える地域社会の再生に寄与しているとも言えるかもしれません。

 ファンがブーイングを行うのは、プレイヤーが意図的なルール違反や無気力なプレイを行うといった、戦術や戦う姿勢に不満があるケースに限りません。その他にも、以下のようなケースがあげられます。

  1. 応援するチームに所属していたプレイヤーが他チームに移籍し、対戦するケース
  2. 応援するチームが大差で敗北したケース
  3. 応援するチームの連敗が続いたケース
  4. 対戦チームのプレイヤーの失敗を誘発するために行われるケース

 ①は、応援していたプレイヤーの移籍を裏切りと解釈し、ブーイングを行うケースです。大谷選手がブーイングを受けたのは、大谷選手の獲得競争にマリナーズが敗北したことに起因していると報道されましたが、このカテゴリーに類似したケースと言えるでしょう。②と③は、応援するチームの不甲斐なさに対して行うブーイングです。本号と次号で特に取り上げたいのは、①のケースにおいても見られますが、④のケースのような試合の進行中に、対戦するチームのパフォーマンスの低下を目的として行われるブーイングです。

 ゴルフやテニスといったスポーツの試合では、観客の静寂が求められます。女子テニスのクルム伊達選手が、試合中に観客が漏らすため息に対して抗議したことは話題となりました。リオ五輪の男子テニス3位決定戦の試合において、トイレ休憩の時間の使い方に対して、錦織選手が観客からブーイングを浴びましたが、ラリーが続いている際にブーイングがなされることは稀であると言えます。

 一方で、サッカーやバスケットボールといったスポーツでは、ブーイングの場面に出くわすことは稀ではありません。サッカーの国際大会では、観客は対戦プレイヤーがボールを持って攻撃を行う際に、ブーイングを行うケースがあります。バスケットボールの試合では、対戦チームがフリースローを行う際に、観客がブーイングを行うケースがあります。これらのブーイングは、シュートを失敗させるといった、プレイヤーのパフォーマンスを低下させることが目的とされています。試合の主催者や審判は、これらのブーイングに対して、制止させる力があるかは定かではありませんが、観客に対して制止を試みることはありません。つまり、ゴルフやテニスとは異なり、サッカーやバスケットボールにおける試合の主催者や審判は、ブーイングを制止されるべき対象とは考えていないと解釈出来ます(ブーイングを好ましくないと思いつつも、制止出来ないという諦めの可能性も排除出来ませんが)。

 しかしながら、サッカーやバスケットボールにおいて、観客のブーイングは推奨されないまでも、本当に許容される行為と言えるでしょうか?次号では、競技スポーツの本質のとは何かという観点から、観客のブーイングについて考えていきたいと思います。

スポーツ健康学科 大峰 光博

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