現地実習沖縄コース総評
真剣に講義を受ける参加メンバー |
本年度の沖縄コースは、9月3日(土)から同9日(金)まで、沖縄本島北部・中南部および宮古諸島(宮古島、伊良部島、下地島、池間島、大神島)、八重山諸島(石垣島、西表島)地域において、歴史・民俗的景観や史蹟および建造物、石碑、歌碑等を巡りながら学生による事前学習の成果を発表させつつ、様々な体験実習を行いました。
初日宮古へ出発前に、元米軍属の男による女性殺害・遺体遺棄事件の現場となった恩納村喜瀬武原へ赴き、全員で手を合わせました。バスの中では米軍属による犯罪の温床となっているとされる日米地位協定について、木村草太氏(首都大学東京)の見解を紹介しながら照屋が解説し、現代日本における米軍基地問題の現状と課題について考えました。
宮古島では各所旧跡を巡検しました。特に印象深かったのは伊良部大橋でした。本学から比較的近い古宇利大橋(約3.4km)は最近まで通行無料の橋としては国内最長であったのですが、昨年伊良部大橋(約3.5km)が開通し記録が塗り替えられました。橋は通行の際の景観や橋そのものが観光資源ともなりうるとされており、この順位の入れ替えが今後どのような場面で表面化してくるかなどについてディスカッションしつつ、景観を確認しました。
5日(月)に八重山へ移動、石垣島では石垣市立博物館で八重山の歴史を概観、また例年お世話になっている石垣島国立天文台の見学を行い、八重山諸島が国内で最も天文研究の環境が整っている場所の一つであることの説明を受けました。
また戦争マラリア被害者や、石垣島名蔵開拓者の方々から直接お話を聞く機会を嘉納先生が作ってくださり、貴重な体験談をお聞きすることができました。特に戦争マラリア被害者のUさんはご家族にも話せなかったという大変貴重なお話をしていただき、戦争という事象の裏側を示され、学生たちもそれぞれ胸を突かれていたように感じられました。
7日(水)には沖縄本島へ戻り、首里城および龍潬や瑞泉酒造といった首里城周辺の史跡を巡検しました。その後渡嘉敷島へ渡る予定でしたが、あいにくの天候不良のため船が欠航の可能性が出てきて渡航を中止、急遽屋良先生に那覇市内の史跡を案内していただき、雨天ながら有意義な巡検が実現できました。
なお、例年実施しているヤンバル野草採取・調理実習は、昨年度、講師の宮城都志子先生より指摘された野草の採取時期を勘案し今年度は後期での実施を予定しております(全行程9日間)。
最後に、連日の猛暑の中、体調を万全に整えてしっかりと実習について来てくれた8人の参加学生の皆さんと、今年度はじめて一緒に引率をご担当いただいた嘉納英明先生および例年に引き続き今年度も引率を担っていただいた屋良健一郎先生に感謝いたします。
総評:照屋 理(国際文化教育研究学系 上級准教授)
生まれ育った沖縄を知る
賀数 涼夏(国際文化専攻3年次、沖縄県立普天間高校出身)
私たちはが現地実習の目標を「講義やゼミで学んだことを、実際に目で見て理解を深める」と定め、歴史を現代と繋げて考えることを意識して取り組みました。
やはり実習では、何時間も重ねてきた事前の文献調査が一瞬にして鮮明な知識となります。「百聞は一見にしかず」とはまさにこのことであり、その中でも特に印象的だったのは、西表島の忘勿石(わすれないし)です。マラリアが風土病だった西表島に波照間の人々は強制疎開させられ、何千人もの病死者が出ました。その波照間の人々の悲痛な叫びが込められた忘勿石を実際に見ると、彫っている姿が目に見えるようでした。動悸もして、不思議な気分になります。これは実際に見て初めて感じられたものです。
また、実習を通して、歴史は苦しいものが残りがちである印象を受けました。それこそ忘れてはいけないものなのです。今、私たちが不自由なく暮らせているのは、苦しい過去あってのものであり、感謝すべきだと強く感じました。私の個人的な目標としては、琉球文化圏の「芸能」を比較することでした。宮古では雨乞い、八重山では星の歌、首里では中国からの遣いをもてなすための芸能など、地域ごとに当時の社会の背景が色濃く反映されていることを知りました。
現地実習は、将来のことを考えるいいきっかけになります。沖縄の芸能を伝える仕事に就きたいという気持ちが、実習を通してさらに増しました。そのためには生まれ育った沖縄から知っていくことはとても大切なことです。琉球文化圏コースに参加して本当に良かったと心から言えます。
元世界チャンピオンの銅像と記念撮影 |
沖縄を歩いて
松田 美香子(国際文化専攻3年次、沖縄県立開邦高校出身)
今回、現地実習沖縄コースは8月18(木)から24日(水)まで、宮古島、石垣島、本島南部の3つの地域を訪れ、琉球文化について学んできました。宮古島では、博物館や地下ダム資料館、市内にある琉球国時代の役人の墓を見学し、本島とは地形や墓の作りが異なっているなど、独自に発展していった文化を見ることができました。本島南部では、首里城や国際通り周辺の散策、壺屋焼物博物館を見学し、現在一般的な形のシーサーの起源とされるものやその原料など、近くにあるにもかかわらず知らなかったことがたくさんあることに気づかされました。また、今まで知らなかった沖縄本島以外での沖縄戦について学ぶ機会も得ることができました。事前に資料を用意してはいましたが、実際に石碑のある場所を訪れ、体験者の方のお話を伺うと資料などでは得ることのできない知識を得て、濃い体験をすることができました。今回の実習は、どの地域でも、その場所に訪れるからこそ得られるものがたくさんあり、貴重な体験ばかりでした。
普通の旅では行けないところや出会えない人との交流も、実習だからこそ体験できることだと思います。それは今しかできないことで、1秒たりとも無駄な時間のないとても有意義な実習の旅となりました。
照屋上級准教授(右)の説明を受ける学生たち |