著書『日本の対中国関与外交政策 -- 開発援助からみた日中関係』
2016年3月に本学大学院国際文化研究科の高嶺司教授が、著書『日本の対中国関与外交政策 -- 開発援助からみた日中関係』(全275ページ)を明石書店より出版しました。これは本学総合研究所出版助成によるものです。
以下に、公刊された本書の概要を紹介します。
近年の日中関係は、2010年に発生した尖閣諸島周辺での中国漁船と海上保安庁巡視船との衝突事件、2012年の野田民主党政権による尖閣諸島の国有化、2014年以降顕著化してきた中国による南沙諸島(スプラトリー諸島)の一部埋め立てに象徴される活発な海洋進出、さらに、2015年の高速鉄道建設に代表される大型インフラ事業の世界中での受注獲得競争をめぐって、外交・安全保障面での緊張と対立が継続している。
一方、尖閣諸島国有化直後の中国国内での日本企業を標的とした一連の暴動で顕著化した日本企業の対中投資リスク、中国での全般的な人件費高騰を理由とした日本メーカの海外直接投資の東南アジアへのシフト、天然資源供給地域における日中のグローバルな資源囲い込み競争、2015年の中国主導のアジア・インフラ投資銀行(AIIB)の発足とそれに対抗した形での日米主導の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の大筋合意に例示される、日米と中国によるアジア太平洋地域の経済運営をめぐる主導権争いなど、日中の経済関係も1990年代から2000年代のブーム期と比較するとだいぶ冷めた感がある。
さらに、内閣府の世論調査によると、日本の一般市民の中国に対するイメージは、上述の諸問題の影響もあり、21世紀に入って悪化傾向が深刻化している。一方、中国においても共産党政権の反日教育の効果も手伝って、中国国民の日本に対するイメージは同様に悪化傾向が顕著である。
こうした現状を踏まえた上で、1980年代から2000年代はじめの日中関係を振り返って見た場合、両国の政治・経済関係が今日と比較した場合いかに良好であったかのかがわかる。果たしてなぜそうだったのであろうか?いかなる環境や要因がそうした良好な日中関係に貢献していたのであろうか?こうした問いへの答えを開発援助(ODA)の視点から導きだすことが、本書の究極の目的である。その課程で本書は、日本と中国がお互いをアジア太平洋地域における重要な政治・戦略的競合相手と認識しているのにもかかわらず、「なぜ」日本政府は巨額の開発援助を中国に対し供与し続けたのかという疑問に対する答えを提示する。
本研究の特徴の一つは、参考文献や資料として数多くの欧文献を使用していることである。したがって必然的に、日本の対外政策や日中関係の分野を研究している外国の専門家の視点が、本研究の論旨の根拠として、あるいは理論や分析枠組みのモデルとして反映されている。本書は、国際政治学および対外政策論の専門の人たち、また研究者でなくとも、世界情勢や日中関係の展開に深い関心を抱き、学術的な研究の成果に触れたいと考えている人たちが、戦後日本の対中国外交政策について知りたいと感じておられる事柄に関しても、ある程度お応えできるのではないかと思っている。この点については、読者の皆様の率直なご批判や評価を、お願いする次第である。
高嶺 司 ( Tsukasa TAKAMINE ) 国際学群 国際文化教育研究学系 専門分野 : 国際関係論、対外政策論
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