大学の世界展開力事業
チェンマイ大学(タイ)留学体験記
「アジアの平和と人間の安全保障」学生交流プログラム
留学期間:2015年8月〜2016年2月
名桜大学大学院国際文化研究科人間健康科学教育研究領域
上地正晃
国際社会において、テロ事件、エボラ出血熱等の感染症、貧困、環境問題、人身売買、違法移民、ジェンダー問題等、多くの問題が世界各国で迅速に解決されるべき最重要課題とされ、日々の新聞、CNNやBBC等で放送されている。特に、2001年アメリカでの9•11を皮切りに世界数カ国がテロとの戦いに一精した。しかし、テロ組織の一掃どころか、"対テロ"に参戦する国々がテロ組織のターゲットとなり、世界のあちこちで多くの無差別テロが発生し、多くの市民が犠牲となっている。その恐怖から逃れようと多くの人々が難民や違法移民となり、ヨーロッパで物議を醸しているのは今日では日常茶飯事となっている。このような国際情勢において、国際保健医療分野の視点から世界の平和に少しでも貢献できないかという思いが、このプログラムに参加した私の動機でもある。
受講した科目の一つ「東南アジア情勢」では、紛争、環境・海洋汚染問題、人権問題、領土問題等、多くのトピックを学ぶことができた。その中でも一番印象に残ったのは、ミャンマーやバングラディッシュからの難民や、それらの国々で生まれ育ったにもかかわらず、少数派の民族とのことだけで無国籍者として人権を無視されている多くの人々が存在している。特に、ロヒンジャ小数派民族(ラクハイン州:ミャンマー)が激しい迫害から逃れるため、タイやマレーシア、インドネシアへ人身売買者経由で航海中、海へそのまま放置され多くの命が犠牲となっている事実は、現在、国連やASEAN諸国は介入できず、周辺諸国は責任の所在をたらい回しにしているのが現状である。それは、ヨーローパでの中東からの違法移民にも当てはまる問題であり、国際レベルでトラディショナルな国境を守るためだけの保障から、様々な問題から人々の命を守るための「人間の安全保障」の構築の急務を訴える一つの実態に過ぎない。
人間の安全保障を考える上で人権の要素は切り捨てることはできず、また、どの個々人も人種や社会経済的地位によってその人権を脅かされてはならない。どの人々も貧困に陥ることなく保健医療サービスを享受できる権利を有し、そのシステム構築について、私は保健省研究機関でインターンとしてタイ保健医療制度について研究中である。
タイの保健医療制度は、中低所得国家にも関わらず、人口の10%の社会保険者を除き、残りの90%を全て国が支出し、プライマリ・ケアの充実と生活習慣病の予防・治療と先進国でも財政難に見舞われる課題に取り組むほど保健財政が発展している。しかし、トレードオフが発生しているのも事実であり、エビデンスに基づいた保健医療システムを構築し、今の国家に何が必要で何が必要でないかを定期的に調整していくことが重要であることを学んだ。
"Free from fear and want" 2000年の国連ミレニアム総会アナン国連事務総長の「恐怖と欠乏からの自由」という当時の人間の安全保障のキーワードは現代社会を反映しているとは言い難い。世界は加速度的に縮小し、テロ、感染症、金融危機等にも影響を受け、もはや国家の危機のみならず、国民の命、生活の質をどう守るか、人間の安全保障の再構築・充実は世界的に急務である。保健医療制度はその一部分を担うにすぎないが、残りの留学期間、研究に邁進し、2016年世界がより平和になることを願う。