名桜大学は、この春、学部451人に学士号、大学院12人に修士号を授与し、社会に送り出します。卒業生、修了生の皆さん、おめでとうございます。また、本日ご出席いただきましたご家族の皆さま、関係者の皆様にも心からのお祝いを申し上げます。
さて、卒業式、修了式の季節は、日本では桜の季節です。ここ沖縄北部では、1月に桜祭りがあり、日本の桜前線は本学周辺の丘や山から始まります。本学のキャンパスでは今年も桜が咲きました。その桜のうちの1本は、統一ドイツの初代大統領であったリヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカーさんが平成11年(1999)4月16日に記念植樹したものです。その日、ヴァイツゼッカーさんは、沖縄の学生たちと対話をするために来学されました。今年の1月31日、ヴァイツゼッカーさんの桜の木が満開に咲き誇っているときに、氏は94歳でお亡くなりになりました。
本日、ヴァイツゼッカー前大統領に言及しましたのは、氏の発言が、「平和」という問題に収斂していくからに他なりません。ご承知のように、本学の建学の精神は「平和・自由・進歩」です。1985年5月8日、ドイツ連邦議会における「荒れ野の40年」と題する演説の中で、「過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目となります」(永井清彦訳)と大統領が発言し、世界中に深い感動をもたらしたのはよく知られていることです。名桜大学の建学の精神である「平和」は、1945年の沖縄の激烈な地上戦を生き抜いた本学の創立者たちが、深い祈りを込めて選択した言葉です。この点で言えば、1999年のヴァイツゼッカーさんと学生との対話は、本学のキャンパスでドイツやヨーロッパの歴史と、日本・沖縄、そして東アジアの歴史が交差した瞬間でありました。
ヴァイツゼッカーさんは、東江康治初代学長の依頼に応えて、学長室で若者に贈る言葉をお書きになりました。引用します--「沖縄の若者であるということは、東アジアの中心にいる若者ということであり、その若者が平和のために力を注ぐということは東アジア全体の平和のために力を注ぐことになろう」(松原敬之訳)。「沖縄の若者であること」という言葉には、当然のことながら「名桜大学で学ぶ若者」も含まれています。
また、学生との対話の中で、氏は「異なる文化、異なる宗教に対して寛容な態度を取る」ことの重要性についても語っています。ベルリンの壁が1989年11月10日に崩壊しました。これはいうまでもなく、ひとつの不寛容なイデオロギーの終焉を意味しました。ところが、新世紀になって15年目の今日、世界に広がりつつあるものは、異なる文化や宗教や人種に対する不寛容であり、それから派生する人権侵害、暴力、戦争であります。
沖縄と日本を含めた東アジアでは1945年から70年過ぎたいまでも冷戦が続き、さまざまな壁が人々を隔てています。このような壁が消滅する日は、東アジアに真の平和が訪れる日となることでしょう。日本の桜前線はここから始まります。私は、21世紀の東アジアの新しい価値観を生み出す前線も、ここから始まって欲しいと願っています。ヴァイツゼッカーさんが語った東アジアの平和な未来はいまだ到来していないように思えます。しかし、私たちにはいまだ到来していない沖縄や、日本や、東アジアの未来を実現する義務と責任があります。名桜大学のヴァイツゼッカー桜は私たちにそう語りかけているように感じられます。
名桜大学の教育の特色は「名桜型リベラルアーツ教育」と呼ばれるものです。卒業生や修了生の皆さんは、本学の建学の精神を基盤にして設計されたカリキュラムで学んできました。liberalという英語の語源はラテン語のliberalisから派生したものです。これは「(奴隷ではなく)自由人にふさわしい」ということを意味する言葉です。ですから、liberal artsとは「自由人にふさわしい学芸」を意味します。つまり、名桜大学の教育の根本にあるものは、「固定された通念を揺さぶり、硬直した視点をやわらかくときほぐして、自由に、創造的に考えること」を目標とする学びです。このような教育の中で、皆さんは新しい世界を創造する知を磨き、激動する世界を生き抜く思考力を身につけたはずです。
名桜大学で学んだことを基礎として、本日卒業・修了する皆さんがそれぞれの豊かな人生を築いていくことを期待いたします。そして、名桜大学の卒業生、21世紀の地球市民として自信と誇りをもって地域と世界に貢献する人になってください。また、東アジアの青年に贈られたヴァイツゼッカーさんの言葉と名桜大学の建学の精神をどうぞ心にとどめていてください。本学で真摯に学び、自由に深く考えたことが、皆さんの人生を導く光となることを祈っています。卒業生、修了生の皆さんにあらためて心からのお祝いを申し上げ、学長告辞といたします。卒業、修了、まことにおめでとうございます。
最新情報
平成26年度卒業式・修了式―学長告辞
掲載日:2015年6月12日学長室から
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